箱根で箱庭リトリート







箱根の名には
『神の住む山』という意味が
あるらしい。









これは、書籍『箱根人の箱根案内』からの引用だ。著者は、箱根生まれで、富士屋ホテル創業者の血筋だそう。本書は箱根の地に対する好奇心に応え、どこでも気軽に読める文庫本で、箱根を一歩深めたい人にお勧めだ。

箱根人の箱根案内 書影

そして、もっと箱根を知りたいという向学心溢れる箱根ファンには、箱根湯本にある郷土資料館をお勧めしたい。
ここの図書館は、古地図や風土記など2万冊の資料が蔵書されていて、重い可動式の書棚を動かすたび心が躍る。

箱根郷土資料館
https://www.hakone.or.jp/556





「SAFARI Atelier and Lab.Hakoneの地に、『なぜ箱根を選んだのか?』」という質問をよく受ける。
この質問の答えは複数ある。しかし、決め手となる答えは一つだ。
火山。

こんなにも都心に近い、アクセスがいい場所に、日常的に、生活のなかで、山から「モクモクと」あがる噴煙を拝める。そんな場所は他にあるだろうか。
もちろん、海に近いことは、私にとってはとても重要だ。海は、山とはまた違う魅力がある。海水は心身が喜ぶ。





モクモクは「黙々」と同音だ。
火山は普段は静かに生命活動を営んでいる。そして、噴煙は五感で大地の生命活動を伝える。
生活しながら、仕事しながら、芸術しながら、呼吸しながら、黙々と。その生命活動を感じて生きる。
これこそ自然とともにある生活。箱根は自ずから然るが具現化された地だと思った。


火山とは人の心理にどんな影響を及ぼしてきたのか、知りたいと思った時に一冊の本に出会った。『火山と日本の神話―亡命ロシア人ワノフスキーの古事記論』。





スサノオノミコトは火山の神である。
この説は、ロシアの革命家で日本に亡命した研究者が、古事記などを先行研究に一途なまでに自説を展開した本書籍の趣旨だ。
このマニアックな専門書で、火山というワードを通し、スサノオノミコトに出会ったことに心が躍った。
なぜなら、スサノオノミコトは古事記において、イザナギノミコトが禊をした時に鼻から化生した神と記述されている。
つまり、スサノオノミコトは嗅覚を司る神で、特別であったから。





火山とは物事を作り出す根源的エネルギー。
そして嗅覚は、本能や創造性と関わり、根源的なエネルギーをもった感覚といえる。

もちろん、一つの物事についての捉え方とは多様で、スサノオノミコトの火山神説には異論がある。しかし、火山と日本人の精神性との関わりは、多くの研究者が認めていることだ。
少し目を閉じて想像してみよう。
火山が噴火し、身体性をともなう強い体験があったとして、古事記などの神話や信仰、民俗に影響をあたえないことはないのではないか。
カルデラ箱根は日々の生活で、火山を通して、儀式を通して、自然を通して、嗅覚、スサノオノミコトを感じられる場所だ。


火山と日本の神話 書影





神話は心理学研究において重要だ。巨匠ユング、日本の臨床心理学の父河合隼雄、そして、現代まで神話の意義を説き芸術作品にも影響を与えるジョーゼフ・キャンベルも。
神話にふれることは人間の心、我々の集合的な叡智や精神性を語る上で欠かせないと告げている。
火山という視点から、古事記など神話、そして日本人の心理や精神性、芸術、ウェルビーイング、アールドヴィーヴルを考える。そして宇宙船地球号の一員として生き方を体現する場として、大涌谷の噴煙を望むカルデラ地「箱根」は相応しい。









箱根には芸術家が住み、個性的な美術館やホテルがある。そしてそれぞれが表現する活動がつながりシナジーをつくる。
箱根のポーラ美術館は印象派の作品が多く収蔵されているが、印象派は当初、芸術主流派から相手にされず、酷評されていたらしい。
創造性をもって生きる人が、社会の評価基準から外れ、周囲の無理解や批判にさらされ、生きづらさを感じることは、歴史を振り返れば枚挙にいとまがない。多くの人から承認されることを求め、社会基準に沿い安心感を得る人たちのなかで、自分の内なる想いと自分らしさの基準を重視しつつ、他者と関わることは時には困難に思えるかもしれない。








だから、SAFARI Atelier and Lab. Hakone は、箱根から、世界中の植物の香りを通して、皆さんと出逢いたいと思う。
モネの《 印象、日の出 》をオマージュし、タイトルを
《 印象、はこね 》
にして。
東京から御殿場や三島、相模湾や駿河湾、伊豆半島や霊峰富士山をつなぐ箱根。

火山という自然の息吹に香りをのせ。



















さて、ここまで、本を紹介しつつ、カルデラ箱根の魅力をまとめた。
私は本が好きだ。2週間で概ね3冊、年間で100冊以上は読んでいる。
なぜ2週間でカウントなのかというと、図書館は2週間単位で借りられるから。
地域の図書館はとにかくよく行く。
そして、旅先でも「地域の図書館」に立ち寄る。各地に目を惹く図書館があるが、いままで訪問した海外の印象的な図書館は

『香港中央図書館』
『セドナ公共図書館』
『ハワイカイ公共図書館』

どちらも町の雰囲気をよく表現していて、フィットしていた。





箱根町の図書館は利用者が少ないこともあり、ベストセラー本が比較的簡単に借りられる。
ただ軽井沢などと比較すると、あまり居心地へのこだわりは感じられない。図書館は文化度を語る。箱根の図書館の未来には大いに期待している。

もう一度繰り返す。
私は本が好きだ。本は複数の人が関わって生まれる。
だからこそ、五感でじっくり読むことで、必ず何かを感じる。
心をフラットにして、著者の表現を多様なパースペクティブの一つとして受けとめれば、必ず何かが得られる。










箱根で箱庭リトリート